コレクションガイド
中古レコードの選び方… 盤の過去を、買う前に読む
公開日
レコードは再生のたびに跡を残し、いちばん悪い傷みほど目に見えません。ヒゲ、ランアウト、面の最後の試聴、反り。中古盤の店頭で見るところと聴くところを紹介します。

要点
- CDと違い、レコードは再生の跡と、かけたプレーヤーの跡を残します。
- 溝の摩耗は元に戻らず見えにくいので、きれいな盤面はあまり証明になりません。
- ヒゲ、一曲目の入り、ランアウトの素材が、盤の扱われ方を教えてくれます。
- 試聴は各面の最後で。溝が針の下をいちばん遅く通る場所です。
- 縁に沿って反りを見て、店の棚の保管の仕方にも目を向けます。
箱の中のレコードは、ジャケットよりきれいに見えます。ジャケットには丸い擦れ跡が浮き、タイトルの上には値札。店の照明の下で傾けた盤は、黒く光っています。見た目だけなら、迷わず買うところです。
中古CDは、二百回再生されても新品と同じ音で鳴ることがあります。中古CDの買い方で書いたとおりです。レコードはそうはいきません。一回の再生は、柔らかい塩化ビニルにダイヤモンドを押し当てることであり、盤はそれを覚えています。中古レコードで買っているのは、その盤がかけられてきたすべてのプレーヤーの履歴です。そして、その履歴のいちばん悪い部分は、箱の前では見えません。
再生のたびに、跡が残ります
1968年、プリンストンにあるRCAの研究所のチームが、レコードの溝を走査型電子顕微鏡で観察し、溝の摩耗を初めて目に見える形にしました。結果は安心できるものではありませんでした。一度の再生でも溝に跡が残り、その後も再生のたびに摩耗は積み重なっていました。 塩化ビニルは削り取られるというより押しのけられていました。針が溝の壁の山から材料を押し出し、下り斜面に残していたのです。
どれだけ傷むかは、回数よりも装置で決まりました。同じ丸針で五十回再生しても、溝は二通りになりました。針圧1.5グラムでは、溝はほぼ手つかずのまま。5グラムでは、高域の細かな情報がほとんど消えていました。 当時、5グラムは乱暴な使い方ではありません。1960年代後半のレコードプレーヤーの多くが、その針圧で再生していました。
ですから、盤の過去とは、何回かけられたかというより、何でかけられたかです。調整の行き届いたアームで五百回かけられた盤が、誰も針を替えなかった家庭用ステレオで三十回かけられた盤より良い状態にあることもあります。どちらを手にしているかは、ジャケットには書いてありません。
きれいな盤面は、あまり証明になりません
溝の摩耗は、いちばん問題になり、いちばん隠れやすい傷みです。強い光の下では、艶を失ったような、くすんだ灰色の部分として見えることがあります。まったく見えないことも少なくありません。そして、落ちません。摩耗した針や重すぎる針圧による傷みは元に戻りません。 溝の壁は汚れたのではなく、形が変わっているからです。クリーニングで取れるのは埃です。押しのけられた塩化ビニルを元の場所に戻すことはできません。
だから目視の評価は、確かめた結果ではなく予測です。店によっては、見てつけるビジュアル・グレーディングと、聴いてつけるプレイ・グレーディングを区別しています。見ただけの評価が教えてくれるのは傷のことです。溝のことは、聴かないと分かりません。表記の二文字より横の一文が大事な理由は、中古レコードの状態表記で詳しく書きました。
傷のほうが、まだ扱いやすい問題です。光を反射し、深いものは指先で分かります。オーディオテクニカの記事が言うとおり、見るべきは傷の有無より深さで、音溝より浅い傷はほとんどの場合ノイズになりません。例外は、溝を横切るのではなく、溝に沿って走る傷です。いちばん見つけにくく、針が止まったり飛んだりする原因になりやすい傷です。摩耗は静かに片面全体に広がり、直しようのない高域に居座ります。
扱われ方を、盤から読みます
店で顕微鏡は使えませんが、前の持ち主が残した証拠は探せます。盤は縁とラベルだけを持って取り出し、影ができるくらい強い光の下で見ます。柔らかい店内の照明は、どんな盤もきれいに見せます。ゆっくり傾けて、反射を盤面の上で動かしてください。
まず中央です。ラベルのセンターホールの周りに、細い線が何本も走っていることがあります。日本ではこれを「ヒゲ」と呼びます。スピンドルに擦れてできる跡なので、オーディオテクニカの用語解説にあるとおり、ヒゲの状態はその盤がどれほど聴かれてきたかの判断材料になります。どれだけ丁寧にかけられてきたかも分かります。ヒゲだらけのラベルは、頻繁に、手早く聴かれてきた盤です。
次に、各面の一曲目の入りを見ます。針を落とす場所であり、不注意な手による傷がいちばんつきやすい場所です。
盤の素材も手がかりになります。最後の曲とラベルの間にある、溝のない平らな帯、ランアウトを同じ光で見てください。再生ビニールを使った盤は、そこが少し乳白色がかり、紙の繊維の細かな粒が混じって見えることがあります。1970年代のオイルショックのころには、業界の多くが盤の厚みと材質を落とし、サーフェスノイズが増えました。溝の浅い薄い盤では、重い盤なら鳴らずに済むような細い擦れが、音になることがあります。
ひとつ、それだけで棚に戻す理由になる欠陥があります。材質の合わない古い内袋が、長い年月のうちに盤面にモアレのような模様の曇りを残すことがあり、ランアウトでいちばん見つけやすく、クリーニングでは取れません。London Jazz Collector の助言ははっきりしていて、内袋の跡がはっきり見える盤は見送るべきだとしています。針を恒久的に傷める恐れがあるからです。
試聴は、面の最後で
試聴できる店では、多くの人が一曲目の頭をかけます。盤のなかで、いちばん何も教えてくれない場所です。@DIMEの記事によれば、ディスクユニオンで試聴できる時間は数分ほど。その数分を、どこに使うかです。
理由は幾何学です。ターンテーブルは一定の速さで回りますが、ラベル近くの溝は、外周よりずっと小さな円を描きます。LPの片面の始まりでは、毎秒約510ミリの溝が針の下を通ります。面の終わりでは200〜210ミリ。同じ音楽を、半分に満たない長さで刻むことになります。 同じシンバル、同じサ行の音が半分以下の長さの溝に押し込まれ、針はそれをなぞるのに苦労します。日本ではこれを「内周歪み」と呼び、プレスの精度や針の摩耗が原因になることが多いとされています。
摩耗した盤が正体を現すのも、そこです。溝の摩耗は面の終わり近くでいちばん出やすく、明瞭さが落ち、高域が荒れたり歪んだりし、ボーカルの輪郭がにじんで聞こえます。ですから、各面の最後の曲の、最後の数分に飛んでください。声かライドシンバルの入った箇所を選びます。静かでまばらな箇所は、サーフェスノイズを教えてくれます。にぎやかで明るい箇所は、摩耗を教えてくれます。両面で確かめます。A面を愛した前の持ち主が、B面にはほとんど針を落としていないこともあり、二つの面の状態が大きく違うことがあります。
内周が少し荒れるのは、新品でも避けられないこの形式の性質です。だからこそ、比べることに意味があります。面の終わりが始まりより明らかににじんでいて、試聴機の調整のせいでもないなら、聞こえているのはその盤の過去です。オルトフォンも、他の盤では問題がないのに特定の盤でだけ症状が出るなら、原因は盤の側にある可能性があるとしています。試聴できない店では、見たものだけが頼りになり、返品の条件の重みが増します。払う前に確かめてください。
縁に沿って見ます
反りは確かめやすく、忘れやすいものです。盤を目の高さに持ち、縁に沿って見通します。四分の一回して、もう一度。ジャケットからは出して見てください。ジャケットは反った盤の周りでも平らに見えることがあり、平らな盤の周りで反っていることもあります。平らな台に置いて、全周が接地するかを見る方法もあります。ゆるい皿状の反りなら問題なく再生できることもありますが、縁が急に持ち上がっている盤や、回しているときに揺れが見える盤では、トーンアームが上下に揺さぶられます。
反りの多くは保管の問題なので、店の棚も証拠になります。米国議会図書館は、盤を縁で立て、面全体を支えるしっかりした仕切りとともに保管するよう勧めています。オーディオテクニカの記事も、大きく傾けて立てかけたままにすると、ジャケットの中で盤が反りやすいと注意しています。ぎっしり詰まってまっすぐ立った箱は、在庫を守っています。何か月も盤が斜めにもたれていた半分空の棚や、暑い場所で夏を越した箱は、二度確かめる価値があります。
それから、何のための一枚かを決めます
ここまでは盤そのものの話です。その横に、別々に決めることが二つあります。
一つ目は、それが欲しい版かどうかです。ジャケットとラベルは、何のアルバムかを教えてくれます。どのプレスかを教えてくれるのは、カタログ番号とランアウトの刻印です。特定の版に払うなら、値段を信じる前にプレスを見分け、裏ジャケットの著作権表示の年ではなくランアウトのマトリクス番号を読んでください。日本盤なら、帯の有無も盤質とは別に確かめます。
二つ目は、何のための一枚かです。聴くための一枚なら、背の割れや擦れたジャケットは我慢できますが、B面の最後で荒れた高域は我慢できません。棚に置くための一枚なら、その逆です。値段に決められる前に、どちらを買うのかを決めてください。くたびれた溝を包んだ美しいジャケットがお買い得なのは、一度もかけるつもりがない場合だけです。
持ち帰ったら、各面の最後で聞こえたことを Record by Record のその一枚に書き留めておきます。同じアルバムにまた箱の中で出会ったとき、それが買い替えになるのか、ジャケットがもう一枚増えるだけなのかが分かります。
よくある質問
180グラムの重量盤なら、中古でも安心ですか。
一部は安心ですが、肝心な点では違います。12インチLPの重さは80グラムから200グラムまで幅があり、重い盤では細い擦れが音になりにくくなります。けれども重さは、その盤が何でかけられてきたかを教えてくれません。摩耗した重い針で何年も回された180グラム盤は、薄い盤と同じように高域を損なっています。重さにかかわらず、各面の最後を確かめてください。
自分のレコードを傷めないために、針圧はどう決めればよいですか。
カートリッジのメーカーが指定する範囲に合わせます。カートリッジはその針圧を前提に設計されています。アームの目盛りを信じるより、針圧計で確かめるほうが確実です。針は消耗品で、かつては寿命まで約500時間とよくいわれました。オーディオテクニカの記事は、丁寧にクリーニングしてもなお音がザラつく、歪みっぽいと感じたら交換の時期だとしています。摩耗した針による傷みは戻りません。
持ち帰ったレコードは、どう保管すればよいですか。
まっすぐ立てて、支えのある場所に置きます。米国議会図書館は、4〜6インチ(約10〜15センチ)ごとにしっかりした仕切りを入れて盤がもたれないようにすること、家庭のコレクションなら相対湿度35〜40%程度の涼しい部屋を勧めています。塩化ビニルは高温に極めて敏感です。国内盤に多いビニールの内袋は、夏の暑い部屋で盤に張り付くことがあります。盤は縁とラベルだけを持ちます。
試聴できない通販では、どう確かめればよいですか。
写真では答えられないことを質問します。実際に聴いたのか。聴いたなら各面の最後まで聴いたのか、頭だけなのか。ラベル近くでボーカルがにじむことはないか。そのうえで、強い光で撮ったラベルの接写を頼めば、ヒゲが写ります。ランアウトの写真も頼めば、盤の素材が分かります。聴いて評価している出品者なら、すぐに答えられます。見ただけならたいていそう言うので、それも役に立つ答えです。
家で聴いたらノイズがひどかった場合、返品できますか。
店によります。2018年の@DIMEの記事では、ディスクユニオンで買った盤を家で聴いてノイズがひどい、あるいは針飛びするといった場合は、レシートがあれば原則返品可能と紹介されています。ただし条件は店ごとに違い、変わることもあります。払う前に確かめ、レシートは取っておいてください。申し出る前には、自分の針と針圧も疑い、盤の埃を落としてから聴き直すことをおすすめします。
参考資料
- pspatialaudio.com/record_wear.htm
- audio-technica.co.jp/always-listening/articles/buy-used-record/
- audio-technica.co.jp/always-listening/encyclopedia/hige/
- audio-technica.co.jp/always-listening/articles/record-handle/
- audio-technica.co.jp/always-listening/articles/why-break-04/
- nextrecordsjapan.tokyo/archives/2152101.html
- kaitori.recordcity.jp/buy_column/26890/
- ortofon.jp/analogtaizen/34
- dime.jp/genre/519786/
- londonjazzcollector.wordpress.com/buying-records-online/examining-a-vinyl-record/
- hollowbonerecords.com/blogs/blog/how-to-tell-if-a-vinyl-record-is-damaged
- en.wikipedia.org/wiki/Phonograph_record
- loc.gov/preservation/care/record.html